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電気用品安全法(PSEマーク)別表第八・第十と別表第十二の違いを徹底解説|国内基準と国際基準の使い分け

はじめに — なぜ「別表の選択」が重要なのか

日本で電気製品を販売する際、PSEマーク(電気用品安全法)に基づく適合確認は必須です。しかし、実務として頻繁に問題になるのが「どの基準(別表)で試験を行うべきか」という判断です。別表の選択は、試験の合否、改修の範囲、コスト、販売スケジュールに直結します。

特に混乱しやすいのは、国内向けの独自基準群(別表第1〜11のうちの別表第八や第十)と、国際規格準拠の別表第十二との違いです。本記事では、別表第八・第十と別表第十二の目的・構成・適用範囲の違いを丁寧に整理し、実務上の判断フローや試験所に依頼するときの注意点、具体的な事例までを分かりやすく解説します。

まず押さえるべき基礎知識:電安法とPSEの枠組み

電気用品安全法(電安法)は、消費者の安全を守るため、電気用品に求められる技術基準や表示義務を規定しています。PSEマークには大きく分けて「特定電気用品」と「特定以外の電気用品」があり、それぞれ適合の方法や表示が異なります。

技術基準は法令や省令の別表に規定されており、別表第1〜11(国内基準群)と別表第12(国際規格準拠)が主要な選択肢になります。どの別表を採用するかは製品の種別・設計拠点・販売戦略によって変わります。

別表第八のポイント(国内向け:交流用電気機械器具等)

概要:別表第八は“交流用電気機械器具”や携帯発電機など、家庭や事務所で使われる一般的電気製品に適用される技術基準を定めています。国内の事情や慣習に合わせた細かい要求事項が含まれることが特徴です。

特徴(箇条書き)

  • 日本独自の解釈や要求が多く含まれる
  • 空間距離や沿面距離、絶縁、耐熱などの構造基準が厳格
  • 国内の使用環境(例:住宅事情、コンセント形状等)を前提とした規定がある
  • 試験のやり方・測定条件が国内の試験所で詳細に定められている

主に「日本で設計された製品」「国内販売を最優先する製品」に向いています。ただし海外設計の製品を無理に第八で適合させようとすると、設計・コスト面で大掛かりな手直しが必要になる場合があります。

別表第十のポイント(ノイズ規格:EMI/雑音)

概要:別表第十は、電気用品から発生する「雑音(ノイズ)」に関する国内基準を規定しています。家電や機器が他の電子機器・無線通信に悪影響を与えないための制約です。

特徴

  • 伝導雑音、放射雑音の許容レベルや測定条件が定められる
  • 国内環境に合わせた測定帯域や試験方法の指定がある
  • 別表第八などの安全基準と組み合わせて適合性確認が行われる

EMI対策は設計段階での配慮が重要であり、ノイズ試験で不適合になるとシールドやフィルタ追加、基板設計の見直しが必要になることが多いです。

別表第十二のポイント(国際規格準拠型)

概要:別表第十二はIEC/CISPR等の国際規格を基礎にした基準群で、国際市場で整合性がある試験結果が得られやすいのが特徴です。海外で設計・量産された製品や、多国籍展開を考慮した製品では第十二を選ぶケースが多く見られます。

特徴

  • IEC系の規格(IEC、CISPR)準拠で国際的な整合性あり
  • 試験・測定条件が国際規格に準拠しているため海外設計品との相性が良い
  • 国内基準と解釈が異なる箇所があり、寸法/空間距離/異常試験などで差が出ることがある
  • ノイズ規格もCISPR-J等に準拠しているため、EMI試験との一貫性が高い

国際市場での販売や、設計がIECベースで行われている製品には別表第十二の適用が現実的です。

別表第八/第十と第十二の「違い」を分かりやすく比較

観点 別表第八・第十(国内基準) 別表第十二(国際規格準拠)
出典規格 電安法別表(国内技術基準) IEC/CISPR等の国際規格(IEC-J/CISPR-J等含む)
適用対象 国内向け一般家電、交流電気機械器具等 国際市場での販売や海外設計品
試験条件 国内向けに細かく指定(空間距離など) 国際規格ベースで測定条件が国際的
解釈の幅 比較的厳格かつ固定的 国際規格解釈に基づき柔軟な場合あり
メリット 国内市場での安心感と適合性 海外製品や輸出を見据えた試験が容易
デメリット 海外設計品は適合調整が必要なことが多い 国内固有の要求に追加対応が必要な場合あり

実務での「選び方」フロー — 何を優先するかを決める

実務では以下の順で判断すると分かりやすいです。

  1. 設計拠点と設計規格:設計がIECベースか国内基準ベースかを確認
  2. 販売対象市場:国内のみか海外展開をするか
  3. 試験所の設備と得意分野:依頼予定の試験所がどの別表に精通しているか
  4. 製品仕様(寸法・空間距離・絶縁):国内基準で危険箇所がないか事前評価
  5. コストとスケジュール:基準変更による設計変更コストやスケジュールを比較

簡単な目安:
「国内で設計→別表第八・第十を優先」「海外設計や国際販売を想定→別表第十二を優先」

試験所へ依頼する際の具体的注意点(チェックリスト)

試験所へ試験依頼をする前に、必ず以下を確認してください。

  • 対象別表(第八・第十 or 第十二)を明示する
  • 試験する型式・仕様書(図面、部品表)を準備する
  • 想定する使用環境(屋内/屋外、温度範囲等)を伝える
  • ノイズ要件の優先度(CISPR-J / 国内基準どちらか)を明確化
  • 合否時の対応(リワーク/設計変更の可否、見積りの想定)を事前に相談

また「事前適合診断」や「プレ試験」を依頼できる試験所もあります。これらを活用すれば、本試験での不合格リスクを減らせます。

実例:海外設計の加熱家電で起きた“合否の分岐”

筆者が関わった事例を紹介します。中国設計の加熱家電を国内試験で別表第八に依頼したところ、空間距離(クリアランス)が国内基準に満たずFailとなりました。設計はIECベースで行われており、寸法の解釈差が原因です。

同製品を別表第十二(IEC準拠)で評価した場合、解釈の違いによりPassとなる可能性が高く、結果として「どの別表で評価するか」が認証結果に直接影響しました。

この事例から学ぶポイント:

  • 設計者(海外側)と早期に規格の前提をすり合わせる
  • 試験依頼前にプレ検査を行い、問題箇所をあぶり出す
  • 国内向け販売のみを想定する場合は国内基準での適合が安全

FAQ(実務よくある質問)

Q1: 別表第八と第十二を混ぜて試験できますか?

A: 原則として混用はできません。法令上、どちらか一方の基準に基づき適合性を確認するのが基本です(ただし特定の項目で個別に国際規格の参照が明記されている場合は別)。

Q2: どちらを選んでもPSEマークは付けられますか?

A: はい。別表第八等の国内基準で適合、または別表第十二で適合すれば、それぞれPSEの適合根拠として表示できます。ただし製品ラベルや技術文書の整備が必要です。

Q3: 海外で量産して日本に輸入する場合、まず何を確認すべき?

A: 設計がIECベースか国内基準ベースか、部品や基板設計で国内特有の要求(例:空間距離)を満たすかを確認します。事前に国内の試験所でプレ検査を行うことを推奨します。

結論:基準は「目的」で選ぶ — 早期判断が成功の鍵

別表第八・第十(国内基準)と別表第十二(国際規格準拠)は、目的が異なる二つの基準体系です。どちらを使うかは「設計拠点」「販売対象」「コストとスケジュール」の三点を軸に判断しましょう。早い段階で基準を決め、試験所と協議しながら開発を進めることが、スムーズなPSE取得への近道です。

もし「どの基準がベストかわからない」「どの試験所に頼めばいいかわからない」といったケースがあれば、当方(または信頼できる第三者のコンサルティング機関)にご相談ください。事前診断から試験計画の立案、試験所選定のサポートまで対応可能です。


※本記事は実務経験に基づく解説を目的としたものであり、最終的な法的判断や認証手続きについては、各省令・通知および認証機関の最新の要件に従ってください。